10/18/2009

ブリキの太鼓 / Die Blechtrommel


昔々ひとりのブリキの太鼓叩きがいた。その子はオスカルと呼ばれていた。
三歳の誕生日に鋸歯状の赤白に塗り分けられた太鼓を与えられるが・・・

映画 『 ブリキの太鼓/ Die Blechtrommel 』 (1979/独)

第二次世界大戦前の混乱の時代──ポーランド国内にありながら多くのドイツ人が住む
自由都市ダンツィヒを舞台にした物語。一大叙事詩といった感想を抱かせる作品である。     

成長しない少年という寓話的な要素が本作品の特徴だ。
また登場人物はそれぞれ暗喩としての役割を担っている。

例えばオスカルの祖母と母親は西スラヴ系カシュバイ人としての運命を。
まるで移民一世と二世のような母娘関係は、農村と都市もしくは
旧来の生活様式と新しいライフスタイルといった対比の構造だ。

祖母の四枚重ねのスカートの秘儀のような逸話と
嫌いなはずの魚を貪るようなった母親の摂食行為。
これらは少数民族のアイデンティティの固執と喪失を描く役割なのだろう。


オスカルの母親をめぐる二人の男。愛人と夫に関して言えばこれは明らかで
愛人はカード・ゲームが得意だが虚弱体質であるポーランド人として、
夫は料理だけが唯一の特技で機知に疎いドイツ系小市民として描かれている。

ピアノの上にあるベートーヴェンの肖像が外され
同じ場所に鉤十字の制服の男の肖像が置かれる・・・苦難の時代の予感。

ファシズムが台頭していく時代の趨勢の中、ある者は抵抗を、
ある者は同調を試みる。或いはその両方を天秤に掛けてみる。
いずれにせよ旧市街の人々の暮らしは翻弄され、保たれていた社会の均衡は崩れていく。

そんな大人たちを冷ややかに見つめる少年オスカルの視線──

狂言回しのごとく語られていく台詞は痛烈な皮肉となって響き
更に言えば偏執と猥雑さに溢れたブラック・ユーモアに満ちている。


監督 フォルカー・シュレンドルフ Volker Schlondorff
原作 ギュンター・グラス Gunter Grass
音楽 モーリス・ジャール Maurice Jarre

1979年度 カンヌ国際映画祭パルム・ドール賞 アカデミー外国語映画賞受賞

【ギュンター・グラス】
1927年ダンツィヒ郊外に生まれる。両親は食料品店を経営していた。
父親はドイツ人。母親はカシュバイ人。画家から詩人そして小説家となった経歴を持つ。

1952年フランスに旅行中、コーヒーを飲む大人たちの間に立ちまじった、
首から太鼓を吊り下げた三歳児を偶然目撃し、その太鼓に没頭する姿から
小説『ブリキの太鼓』の主人公像を創ったといわれる。

参考資料
『ブリキの太鼓』 DVD
『ブリキの太鼓』 ギュンター・グラス著
/高本研一 訳 集英社文庫
『ギュンター・グラスの40年』 フリッツェ・マルグル著
/高本研一/斎藤寛 訳 法政大学出版局
『ギュンター・グラス詩集』 飯吉光夫 編・訳 小沢書店 
『映画でみる精神分析』 小此木啓吾 彩樹社
『魔法のランプ』 澁澤龍彦 白水社
『The Emotion and the Strength』
MAURICE JARRE MILAN MUSIC