11/22/2009

映画 『恐怖のメロディ / Play Misty For Me 』



「 西部劇とジャズ、ブルースはアメリカ独自の芸術ジャンルだと思う。
似てるのは形式に乗ってしまえば後は自由にやれるってことだ 」

Clint Eastwood

【 ジャズにとり憑かれた男 】

クリント・イーストウッドのジャズ好きは今では有名な話だろう。
監督作『ピアノ・ブルース』(2003)などはまだ記憶に新しい。
それ以前にも映画『ラウンド・ミッドナイト』(1986)
米国配給を映画会社に掛け合ったといわれているし、
また『セロニアス・モンク ストレート・ノー・チェイサー』(1988)では
製作総指揮を務めている。

そして1988年にはチャーリー・パーカーの人生を描いた
『 バード 』を自らの手で製作・監督している。
1946年にその生演奏を観て以来、
ずっと敬愛していたミュージシャンのひとりのようだ。

  彼は国際的にあれほど著名な映画スターとなってもなお、
音楽家を志望せずに俳優になったことを時々は後悔するという──
そういわれてみると、イーストウッドがピアノを演奏する姿を
最近何処かで観た記憶がある。

たとえ冗談にしてもその音楽への傾倒ぶりは並大抵ではないのだろう。
未聴なので詳しくは知らないのだが、何かの作品で挿入曲などの作曲を兼ねた事もあるようだ。


【 映画 恐怖のメロディ/ Play Misty For Me (1971)

小さなラジオ局でディスク・ジョッキーする男。
彼の元には夜毎エロール・ガーナーの" Misty "を
リクエストする女からの電話が入る。
男は一夜限りの軽い遊びのつもりで会うが、
やがて女は執拗につきまとい始める。そして・・・

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イーストウッド監督の第一作であるこの映画は
ヒッチコック風サスペンスへの習作というのか…
見知らぬ人物と予期せぬ事態に巻き込まれた男の物語だ。

原題に取り上げられた曲はマクガフィンのような存在で
何か特に説明めいたものは語られてはいないと思う。
強いて言うならば曲名とそれをリクエストする時の
女の声の口調と雰囲気が重要な要素なのだろうか・・・

もちろん、サウンドトラック──音楽としては申し分なく、
劇中ではエロール・ガーナー自身のピアノ演奏のヴァージョンが使われて
夜の帳や謎の女といったムードを大いに盛り上げている。

この映画の中で面白いと思ったのはイーストウッド演ずるラジオDJが
謎の女からの執拗な求愛に対して拒絶を試みているが、
一方ではまた、自分も恋人に何だかんだと口実を設けられ
距離を置かれてしまっていることだ。

追いかけられると逃げたくなり逃げようとすると追いかけたくなる──
と、巷ではよく言われる事だが、恋愛関係に潜む深層心理には
やはり何かそういったこともあるのだろうか。


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あなたの顔を 初めて見たあの時
その二つの瞳に 太陽が昇るのを見た
この両の手に感じた 脈打つ大地を
小鳥の心臓の おののきににも似て
この手のひらに すっぽり収まっていた

挿入曲「 The First Time Ever I Saw Your Face 」より

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【 監督 イーストウッド 】

物語の進行を中断するかのように挿入される
モンタレー・ジャズ・フェスティバルのシークエンス。
キャノンボール・アダレイ・クインテットの演奏を収めた
そのドキュメント風のラフで荒々しいカメラ・ワークや、

或いはアメリカ西海岸の浜辺を歩く主人公と恋人の映像に
重ねるように流れるロバータ・フラックの歌唱──
『 愛は面影の中に/ The First Time Ever I Saw Your Face 』

初めての監督作品でこの辺りは実験的な試みだったのだろう。
脇役でドン・シーゲル監督をキャスティングしたのも
色々と現場でアドバイスしてもらう為だったらしい。

後にイーストウッドは”ローリング・ストーン誌”の
インタビューで映画についてこう言っている。
「 映画を観る側に考えさせるのがA級映画であって、
すべて説明してしまうのはB級だ 」
なるほど、そうかもしれない。