12/12/2011

Окрасился месяц багрянцем・赤い月・Lunar Eclipse

(本当はgkz氏の順番の今回ですが、無理言って替わって頂きました。
 gkz氏、有難う。gkz氏のエントリーを期待されていた方、御免なさい!)



10日の晩。
新宿の音楽スタジオを出て駅に向かう途中、幾人かが上を見上げていた。
この寒さの中、三脚にカメラを据えて本格的に撮影をしている人も居る。
つられて頭上を見上げると、高層ビル群の間に浮かぶ赤銅色の月が…

皆既月食。最初から最後まで通して見られた月食としては2000年以来、
11年半ぶりだったと云う。この晩、夜空を見上げた人は多かっただろう。

大都会の夜の帳に浮かぶ、鈍い赤褐色の月。
それを見て即座に、あるロシアの曲が脳裏に浮かんだ。


「赤い月」
“ Окрасился месяц багрянцем ”


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“ロシア民謡は民謡に在らず?”
ロシアで長年親しまれてきた愛唱歌や大衆歌。作曲者と作詞者が不明の場合
日本では全て一緒くたに纏めて「ロシア民謡」と訳してしまう事が多いが、
それは日本にロシアの曲が入り始めた当初、正しくは「Popular song/
ポピュラーソング」になる「Народная песня」というロシア語を、
誰かが「民謡」と訳してしまったことが原因らしい。

更にソ連時代には「歌も公共(=国)の財産」とされた為、特定の作曲者や
作詞者が伏せられていた場合が多く、そうした事情をよく理解していなかった
当時の日本人にとっては「Народная песня=代々受け継がれてきた作者不明
の民謡である」という誤解が助長してしまったらしい。今回紹介する「赤い月」
も又、作曲者及び作詞者が不明な為に日本では「ロシア民謡」扱いになっている。

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本題「赤い月」
「赤い月」は、次第に心が離れていく恋人(男)に対する女性側の息苦しい
程の情念が、次第に復讐劇となってゆく様子がモノローグの形で語られている。


月は赤く染まり 波は岩を打つ
いざ漕ぎ出そう、愛しい人 貴方を待っていたわ

恋人と二人 夜の海 舵は私に取らせて
波の唄に全て委ねて 遠い沖へ出ましょう…



(久しぶりに逢う彼女に誘われる儘、男は舟に乗ってしまう。折しも
空には赤い月がぼんやりと浮かび、小舟が進む先は波が渦巻く荒海…
不審に思い始めた彼に対して、彼女はこう問いかける────────)



「波の歌を信じるな」 貴方がそう言うの?
甘い言葉で この私を虜にした貴方が…

何故 そんなに怯えているの? 青ざめ、震えて
夜の嵐を衝いて進む 私の舵が恐いの?


(そして、彼女は物苦しい程の想いを彼にぶつける。曲の中で彼女は裏切りを
働いた彼をなじるが、果たして其れが真実なのか、妄想のなせる業なのか…)



命を賭けて愛していた 貴方を信じていた
覚えているの? ねえ貴方 私を欺いた日を
覚えているの? ねえ貴方 私を裏切った日を



(二人を乗せた小舟が、木の葉の様に荒波に翻弄される…
そして、彼女が文字通り命を賭けた復讐とその結末とは───)



夜の海は荒れ狂い 吹き募る嵐よ
夜明け 波間に漂うのは 千切れた舟の欠片

夜明け 波間に漂うのは

千切れた舟の欠片…



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以前、歌手 山之内重美さんの歌伴の仕事をした折にこの曲を演る事になり
その時初めてこの曲を知ったのだが、この曲の訳詞を知った時にはその凄
まじい内容に少し呆気に取られ、どう弾こうか迷った記憶がある。

せめて、誰かロシアの人の演奏を参考に…と動画サイトその他の音源を探し
幾つかのバージョンを聴いたのだが、当のロシアの人々は思いの他普通
(と言うか、どちらかと言うと内容など何処吹く風と云った感じ)に歌って
いて、些か拍子抜けした事を10日の皆既月食を見て思い出した次第である。

Окрасился месяц багрянцем - Я - Шаповалов Т.П.
(最後の晩餐風と云うかロシア版家族ゲームと云うか…映画の1シーンより)

retro-nostalgia (Окрасился месяц багрянцем...)
(Лидия Руслановаさんが歌っているバージョン)

"Окрасился месяц багрянцем"
(Владимир Иванниковさんによるクラシック調ギター独演)

Окрасился месяц богрянцем
(州立大学ロシア民謡合唱団とロシアの名誉芸術家による、
堂々たるステージ。楽器の編成はバラライカ3、ドムラ”домра ”5、
バスバラライカ1、アコーディオン3、の総勢11名!)



国民性の違い?日本人には少々妖しい光を放って見えた土曜の赤い月も、
所変わって海の向こうでは福々しく目に映っていたり…と思ったりもする。


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