9/27/2009

" J'attendrai "と映画" Le Bal "


" J'attendrai "と映画" Le Bal "

J'ATTENDRAI(1938仏) 作曲Dino Olivieri

この曲は、イタリアの指揮者ディノ・オルヴィエーリによって作曲された。
原題は"TORNERAI"(193・伊)だが、後に改編された歌詞が
戦争の終結を待ち侘びる人々の心を射とめ大ヒットとなった曲である。
歌っているのはイタリア生まれでフランスに在住していたリナ・ケッティ
(彼女の他にはTino Rossi、Dalida等も歌っている)。

彼女の夢見るような可愛いらしい声と各所にみられる効果的なポルタメントのおかげで、
何時聴いても全体が柔らかな羽毛にふんわりと包まれているような心地良さを感じる曲だ。

"J'attendrai"-Rina Ketty      YouTube

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映画「ル・バル」は、非常に稀有な映画だ。
舞台はパリのボウル・ルーム(ダンスホール)。
時代設定は1920年代から1983年までの約60年間。
登場する役者たちは初めから終りまで、一切の言葉を発しない。その代わり、
その時々に巷で流行った音楽に身を委ね、文字通り「踊って、踊って、踊って、踊る」のだ。
この制約は観る側(とりわけ外国人)にとって其処に集う男女の
一挙手一投足にまで気を配って観られる好結果となり、
いつの間にか物言わぬ彼等の仕草や表情に引き込まれてゆく。

監督のスコーラは本作品の全てのシーンをこのボウル・ルームだけで撮り切っている。
この定点観測のような視点もまた、登場人物のファッションやダンスのステップによって
移り行く時代背景や機微を完璧に映し出す効果を加速させていると思う。

映画"Le Bal"より1シーン    YouTube

またアナヨル的視点に立って見ると、音楽の聞かせ方が見事であると思う。
所謂シャンソンをメインとする時代のシーンでは小編成(ヴァイオリン、トランペット、
ピアノ、アコーディオン、ドラム、ウッドベース)の楽団がフロアの片隅で生演奏を続け
戦時下には古いラジオ、アメリカからジャズがもたらされた時代には生バンドが支え、
現代に至ってはレコードに針を落とし…といった具合に、時代と共に移り行く
「聴きかた・聴かせかた」の時代考証もしっかりとしている。

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そして、この映画の中で前述の『待ちましょう』が幾度か使われている。
運命の人との出会い。 一夜の恋の相手。 不仲な妻の気持。
浮気癖のある恋人の心。 ナチ占領下の、解放軍の到着。
レジスタンスとなり居なくなった最愛の人。 平和。
それまでのフランスには無い、新しい価値観とスタイル。
そして、自由と革命…

各人の立場や時代によって変わりゆく"待っている物"が、
このボウル・ルームにはひしめいている。

そして、全てを見守ってきたボウル・ルームもまた、こんな心持で
此処に集う男女が紡ぐ様々なストーリーを待っているのかも知れない。

待ちましょう、昼も夜も。
いつも あなたの還りを 私は待ちましょう。
飛びゆく鳥も 羽を休めに戻って来るのですから。
~"J'attendrai"冒頭部分の訳詩~


ともかく、一度観て欲しい映画。 そういう事である。