2/14/2010

楽譜についてそこはかとなく思うこと(クラシック編)

クラシック音楽は 作曲家の意図や思想を出来るだけ注意深く汲み取り、
それを忠実に再現することに重きがおかれる。その為、楽譜の持つ様々な
演奏技法の指示の重要さは計り知れない程大きいと思う。


(上から順に、
R.Schumann Fantasie für Klavier zu zwei Händen Op.17  Breitkopf版
F. Liszt Klavierkonzert Nr.1 Es-Dur  Peters版
D.schostakowitsch sonate für viola und klavier Op.147  Sikorski版
C.Debussy Images 2e Serie pour piano seul  Durand版
F.Chopin Polonaises  Paderewski版
J.S.Bach Das Wohltemperierte Klavier teilⅠ  henle版
J.S.Bach Das Wohltemperierte Klavier teilⅠ  Bernardus Boekelman編版



≪ 自筆譜・原典版について思うこと ≫
作曲家が書いた自筆の楽譜を目にすることが出来るのであれば、
個々の書き直し部分(紙やインクの節約、又は書き直し等の手間を省く為にそのままペンで
手直ししながら書かれている物が多い)は、その作曲過程においての作曲者の様々な苦心や
創意工夫の跡を辿ることが出来、取りも直さず個々のフレージングや音の配置への心配り、
またアーティキュレーション等が一番良く解るものだと思う。

Beethovenによる自筆譜



しかし、自筆の楽譜は写真撮影され出版されているとはいえ目にする機会はなかなか無いのが実情で、
また入手出来たとしても、上のベートーヴェンの楽譜のように余りに読み辛い(失礼!)な楽譜の場合
その解読の煩雑ぶりといったら大変なモノがある。またモーツァルトの様に殆ど書き損じや訂正箇所の
無い楽譜もあるし、J.S.バッハ等の様に既に身内の親族によって写譜・清譜されている楽譜もある。

そういった諸事情がある場合、まずは各国の音楽出版社によって出されている≪ 原典版 ≫と呼ばれる
楽譜を入手することがまず最初にすべき事だと思う。原典版は作曲者の自筆譜を基に解読された音を
忠実に再現してある楽譜であり、それ以外の余計な注釈などが一切付加されていない物だ。


≪ 解釈版・校訂版について思うこと ≫
一方の≪ 校訂版 ≫(又は改訂版、解説版とも呼ばれる)。これは、発見された楽譜や原典を基に、著名な
作曲家や演奏家、出版人による解釈が付加されているもの。解釈は、装飾音符・運指法・フレージング・
強弱・速度等々多岐にわたっており、ここに各出版社による差異が生じてくるのがよくわかる。此処で
実際に比較するのは便宜上省くこととするが、興味がある方は大きめの楽器店に行き、同一曲の冒頭
部分だけでも見比べてみることをお勧めしたいと思う。

自分が特に解釈版で秀逸だなあと感心した版を一つ選ぶとしたら、ベルナルドス・ボーケルマン編著
による≪ カラー譜平均律ピアノ曲集 ≫を迷わず挙げたいと思う。一見するとちょっと読み辛い楽譜
ではあるが、2色使いになっている上オンプの玉が■や◆などに書き分けてあるのが解ると思う。
これは主旋律・対旋律がどんな様相に変化しているかが一目で解るようになっているためだ。



また、この楽譜には≪ 和声譜 ≫という物が付随して載せられている。各声部の細かい音高の上下を
バッサリと省き、バッハが最初に意図・イメージしたともとれる和声が書かれていて、その和声が
どんな風に変化していくのかが手に取るように解る仕組みだ。




とはいえ、解釈版には様々な評判がある。例えば▼▼▼▼版はフレージングがおかしい、▲▲▲▲版は運指が…
といった具合であるが、それは演奏する者が取捨選択をすれば良いことだと思うので、今ここで実例を
挙げて示すことは控えておこうと思う。

音楽を習っている人の場合、大抵の場合は師事する先生に「次は××××のソナタ×番。楽譜は◎◎◎版で」
という趣旨の指示を仰ぐと思うが、せっかく様々な楽譜があるにも関わらず指示された楽譜しか見ない
のは些か勿体無いと思う。出来る限りの楽譜を見比べてみて欲しいと思う。ただ輸入楽譜の類は学術書の
例に漏れず価格がベラボウに高いので財力との勝負になるが、各音楽大学等、タダで閲覧出来る場所も
あるので、そういう機会がある場合には是非トライしてみて欲しい。


≪ 自分に合った楽譜、とは。。 ≫
自分の楽譜は自分しか見ないのであるから、思ったことや注意すべき点は運指でも解釈でも、何でも
どんどん書き込んで構わないと思う。それの積み重ねが、自分が陥りやすい欠点を見つける一つの近道
でもあると思うからだ。また、個々の作曲者の癖のようなものも見えてくるかもしれない。後々になって
楽譜を見直した時、その当時自分が思っていた事等も解り、面白いものである。


書き込みの数が増えれば増える程、
それは≪自分だけに合った楽譜≫になるのではないだろうか。