1/31/2010

映画 『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ / JE T'AIME... MOI NON PLUS 』


「ぼくたち二人の沈黙から 
いまでも ぼくの心と下腹をうずかせる
やさしくも崇高な秘密の感情が
生まれでて すこしずつ
日を追って 大きく育っていった」

『天才画家エフゲニー・ソコロフの奇妙な生涯──スカトロジー・ダンディスム』より セルジュ・ゲンスブール


『 ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ/Je t'aime... moi non plus 』(1976・仏)

監督・脚本・音楽 セルジュ・ゲンスブール Serge Gainsbourg
撮影 ウィリー・クラント Willy Kurant
主演 ジェーン・バーキン Jane Birkin   
ジョー・ダレッサンドロ Joe Dallesandro   
ジェラール・ドパルデュー Gerard Depardieu




「好き 好きなの 
俺は・・・でもないさ
愛してる 
・・・どうかな
腰と腰のあいだ 寄せては返す 
島に打ち寄せる波
この愛に入り口はあっても
終わりの出口はいらないさ」


『 je t'aime... moi non plus(1969)ジェーン・バーキンとのデュエット』より セルジュ・ゲンスブール

セルジュ・ゲンスブールという男

困った事になった・・・セルジュ・ゲンスブール──
現在までに遺された膨大な楽曲群と写真や映像といった諸作品の数々。
彼について論じられた文献・書籍等、また関係者のインタビューも
含めると資料はそれこそ多岐にわたり多数存在する。

今回のレビューを書くにあたって、映画と音楽をひと通り鑑賞し直して
関連資料を幾つか読んではみたが・・・それでも尚、僕はその人物像を
いまひとつ掴み切れないでいる。何故だろう? ひとつ解る事といえば、
関連する言葉や単語がやたらと多過ぎる・・・それと枕詞の類が多い気がする。

つまるところ例えば、ルシアン・ギンスブルグ─偽の身分証を持つ亡命一家─ユダヤ系ロシア人、
ダヴィデの星─第二次大戦の忌まわしき黄色い識別章─イエロースター、
ボザール─美術・絵画・建築─フェルナン・レジェと挫折の日々.....

もしくは、作曲・編曲・作詞家─リラの門の切符売り─ギタリスト兼ピアニスト、
フランス・ギャル─B.Bとのボニー&クライド─アンチシャンソンの誕生、

フレデリック・ショパン─ボリス・ヴィアンから、パブロ・ピカソ─パウル・クレー─
サルバドール・ダリに至るヨーロッパ純粋芸術への葛藤と羨望.....

更には、ジタンのけむり─フランス国歌レゲエ版─ナチ・ロック、スノビズム─
ダンディズム─シニシズム、俗物根性─自己崇拝─嘲笑主義,etc..... 
とまあ。こんな按配で僕は余計に混乱してしまう・・・益々困った事になった。

ただ少なくともこれだけは言えると思う──おそらくセルジュは自分の内側に架空の物語を持っている。
内向的で臆病で屈折した教養を抱えるが故のファンタジー──意地悪く言えば妄想の世界か…

そんな所有者の居ない無人の土地で自身の全能を感じていた筈だ・・・
何故なら其処でなら完璧な美意識に浸る事が可能であるから。

セルジュ・ゲンスブール──彼は誰にも知られない場所を知っていて、
そして性愛を越えた完全な愛を渇望していたのだと僕は思う。
by gkz


資料
『 ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ 』 VHS 日活
『 Je T'Aime...Moi Non Plus 』 Philips
『 Jane Birkin Je T'Aime...Moi Non Plus 』 Fontana
『 Versions Femmes 』 Philips Mercury
『 スカトロジー・ダンディスム―天才画家エフゲニー・ソコロフの奇妙な生涯』
セルジュ・ゲンズブール 著 田村源二 訳  福武書店
『 セルジュ・ゲンスブール ジタンのけむり―ねじれた男への鎮魂歌』
シルヴィー・シモンズ 著 田村亜紀 訳  シンコーミュージック
『 日本の名随筆 別巻86 少女 』 作品社
『 STUDIO VOICE vol.214 』 流行通信社